金木犀の香りが一気に強くなったここ数日ですね。
この香りを独り占めするかのように、深呼吸してしまいます。共感していただける方はどのくらいいるのか、気になるところです。
先週に引続き最近の買取事情(日本編)です。
毎日たくさんのお問合せを頂戴しておりますので、なかなか絞るのは難しいのですが…
藤田 嗣治(レオナール・フジタ1886~1968)
前回のブログでアンニュイな表情を描かせたら…と、浮かんで来たのがフジタのこの絵柄。
彼はモディリアーニ、シャガールなどと並んでエコール・ド・パリを代表する画家のひとりであり、フランスでもっとも有名な日本人画家です。
日本にいた頃は文展に出しても落選ばかりでしたが、1913年に渡仏し、才能が開花!パリ画壇に一大センセーショナルを巻き起こしました。
「乳白色の白」と呼ばれる独特の肌の色・質感は、レオナール・フジタの代名詞にもなっています。(後の研究でベビーパウダーを使っていたことが分りました)
特にヌードの評価が高く、春画のエロスをも彷彿とさせるとして、本場パリで絶賛されました。というのも当時の日本画壇は、まだ印象派を追う事しかできずにおりましたので、それらの作品とは比較にならないほど独創的でエレガントです。
サロンに作品を展示すれば黒山の人だかりを作り、サロン・ドートンヌ展の審査員にも推挙されます。
パーティーでは女装したり、着物を着て民謡を唄い、日本舞踊を舞う。お調子者の意である「フーフー(FouFou)」と呼ばれ、作品とともにプライベートでもフランス中の注目を集め「パリの寵児」となったのです。
彼の存在感がどれほど大きいものかは、最新のモード・ファッションとの結びつきを見ても明らかでしょう。
ジル・サンダーの2010春夏のコレクション、さらにクリストフ・ルメール2011の春夏コレクションも、レオナール・フジタにインスパイアされたものです。近年のお話なので、やはり『本物』は時代をも難なく超えてくるものなんですね。
藤田嗣治の影響力は日本人が思っているよりもはるかに甚大です。
しかし、日本人は最後の最後まで彼の真価を見抜けませんでした。
…彼がフランスに帰化してしまった理由がそこにあるのです。
1925年フランスからレジオン・ドヌール勲章、ベルギーからレオポルド勲章を贈られた藤田は、第二次大戦の戦禍を逃れるため日本へ帰国しますが、日本でも戦争が勃発しました。藤田は少しでも自国に貢献したいと考えていたので、与えられた「従軍画家」の仕事に従事しました。
敗戦後、画家らは従軍画家の戦争責任を糾弾しはじめます。
ヨーロッパでの成功に対する嫉妬も重なり、強い非難を受けフジタは、再度フランスへ渡り、そこで帰化します。
二度と日本の地を踏むことはありませんでした。
帰化後、カトリックの洗礼を受けてレオナール・フジタになり、フランス政府からはシュバリエ(ナイト)の称号を贈られます。日本政府から勲一等瑞宝章を贈られたのは、彼の死後の事です。
フランスに帰化してしまったフジタですが、彼の日本人としての心は彼の言葉から伝わります。
「私が日本を捨てたのではない。日本に捨てられたのだ」
「私はフランスに、どこまでも日本人として完成すべく努力したい。私は世界に日本人として生きたいと願う。それはまた、世界人として日本に生きることにもなるだろうと思う」
なんだか、殺伐とした内容になってしまいましたが、藤田の人柄が出る「猫」も「少女」もとても癒されますね。
お次は、日本画の大家
横山大観(1868~1958)
キッチリとした日本画を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?
上記の藤田とは真逆かと思いもしますが、やはり多く査定をいただいております。
それだけ皆様の心を打つ絵柄なんですね。
「紅葉」は紅葉の朱色が鮮やかに色づいています。その朱をより美しく見せるために川面を銀色の輝きで覆っております。この輝きは薄く伸ばした金属の箔を散りばめたものだそうです。箔師の遠藤典男さんによると、蒔絵と呼ばれる技法で大観はプラチナ箔を使用していたそうです。銀箔ではなくプラチナにすることで力強さが生まれ紅葉の鮮やかさに匹敵するそうです。すごいこだわりです。
大観はこの蒔絵にとてもこだわった作家で、蒔絵を行う際、最初に撒くのが砂子。箔をふるいに掛け細かくすると砂子になり、網を張った筒に入れる。接着に使うのは膠で、その上に砂子をまんべんなくふりかける。表面が乾くと再び同じ作業を繰り返しながら絵に空気感を与える。



“師匠についたら、師匠以上のものを作れぬ。ゴッホも我流だった。師匠には絶対つくわけにはいかない!”彼は新しい道を模索し始めた。
“そうだ、日本にはゴッホが高く評価し、賛美を惜しまなかった木版画があるではないか!北斎、広重など、江戸の世から日本は板画の国。板画でなくてはどうにもならない、板画でなくてはわいてこない、あふれてこない命が確実に存在するはずだ!”

